【先義後利と三方よし】 鍼灸院が目指すべき真の姿とは?

東洋はり灸院 統括院長の石丸です。
今回は「鍼灸師が忘れてはいけないこと」と題してお話ししたいと思います。
何度かお話ししている内容かもしれませんが、自分自身が肝に銘じる意味も込めて、改めてお伝えします。
【動画解説】鍼灸師として忘れてはいけないこと
患者様からのプレゼント
本題に入る前に、患者様からいただいたプレゼントをご紹介いたします。
患者様は、大小さまざまな病院に通院しても症状が改善されず、「一生、この症状と付き合っていかなければならない」と言われてしまった、小学生の男の子です。そのような絶望の中で当店に通っていただいた結果、現在は80%ほど改善しており、いずれインタビューをさせていただきたいと考えています。
この患者様から、YouTubeチャンネルの登録者数が1万人を超えているということで、応援の意味も込めて手作りの盾とYouTubeマークをプレゼントしていただきました。
感謝の気持ちをお伝えするとともに、今後も東洋医学の復興のために一層努力していきたいと思います。
お金先行ではいけない
それでは、本題の「鍼灸師が忘れてはいけないこと」に戻りたいと思います。鍼灸師は、お金を先行させるのではなく、患者様の症状や状況を先行させるべきだと私は考えています。
以前からお話ししているように、資本主義経済の日本では、病院を含めて利益重視の考え方が根付いており、鍼灸院の中にも利益を優先するところが少なくありません。私は以前、漢方の勉強会に3年ほど通っていましたが、同業者との交流会などに参加すると、改善方法についてではなく、お金の話ばかりをしていることに驚かされました。だからこそ、私も含めて、改めて考え方を見直す必要があると感じています。
鍼灸院に来られる方は、小さな悩みから大きな悩みまで、さまざまな問題を抱えていらっしゃいます。決して遊びに来ているわけではなく、トラブルや悩みがあるからこそ来店されているのです。とくに当店は、深刻な悩みを抱えた方も多く、そのような場合には、症状や状況を優先して考えるべきだと強く感じています。
もちろん、鍼灸院の運営や経営には家賃や広告費、光熱費などがかかるため、お金は必要です。しかし、お金を優先しすぎると、患者様の症状や状況が置き去りになってしまう可能性があります。
回数券や物販を無理に勧めると、患者様は悲しい思いをするだけでなく、深刻な症状の場合には、その方の将来や人生までも閉ざしてしまうかもしれません。つまり、患者様には症状だけでなく、その方の状況があるのです。その状況を無視して「どうすれば回数券を売りつけられるか?」と考えることは、一種の詐欺に近い行為だと私は感じています。
毎日、詐欺メールが届くように、世の中には詐欺行為が横行していますが、これらの行為と大きく変わらないのではないでしょうか。
もちろん、鍼灸院の運営や経営にはコストがかかるため、必要な収益もあります。しかし、同じ人間として、患者様の症状や状況を先行的にくみ取って対応すべきだと私は考えています。
先義後利(せんぎこうり)
このような道義を優先し、利益を後回しにするという考え方を「先義後利」といいます。これは、義を先に果たすことで利益は後からついてくるという儒教の教えにもとづいています。
先日も、患者様から「あなたは重症だから、30回券を買った方が良いと勧められて回数券を購入した」といったお話を伺いました。この方は30回では改善せず、さらに10回券を購入したところで気づき、その時点でやめたそうです。
私はこのお話を聞いて、「それは軽い詐欺だと思いますよ」とお伝えしましたが、患者様は「でも、すごく良い人だったんですよ」とおっしゃっていました。なぜそう感じたのかというと、相手がセールスマンだったからです。
車のディーラーなども、ニコニコと愛想良く対応しますが、それは車を買ってほしいからです。これと同じことですが、目的が明確な分、車のディーラーの方が誠実なのかもしれません。
基本的に、鍼灸師側は健康な状態にあるため、患者様の症状や状況は想像することしかできませんが、それでもお客様がどれだけ困っているのかを理解しようと努める必要があります。
もちろん、すべての患者様に対して100%の感情移入をしていては、鍼灸師の体がもたないため、一定の距離感は必要です。しかし、それでも患者様をお金の道具にしてはいけません。
患者様との信頼関係
そして、結局は先義後利の方がビジネスとして広がっていきます。
なぜなら、それだけの信頼感を得られるからです。亀の歩みのようにゆっくりかもしれませんが、最終的には先義後利の方が大きな成果につながるはずです。
ですので、何度も言うように、鍼灸師はお金を先行させるのではなく、患者様の症状や状況を先行させるべきです。自分の能力や時間、体力などさまざま問題があることは理解していますが、それでも可能な限り、その姿勢を持ち続けることが大切です。
仮に1日に10人の患者様が来店された場合、週5日営業であれば1週間で50人に対応することになります。この50人すべての方に自分の感情や体力を100%注ぎ続けることは難しいかもしれませんが、それでも「先義後利」の気持ちを忘れてはいけません。
先義後利と三方よし
鍼灸師のマインドとしては、8割以上が患者様の症状や状況を占めている必要があります。そして、経営や運営に関しては2割程度にとどめ、先義後利を目指しましょう。
きれいごとのように聞こえるかもしれませんが、最終的には先義後利が勝ちます。先義後利とは、私がよくお話しする「患者様よし、鍼灸院よし、社会よし」の「三方よし」にもつながります。
これが逆転してしまうと、患者様悪しになってしまいます。近江商人が商売繁盛の原則とした「三方よし」にはならないのです。甲州商人はアフターケアなども重視していますが、商売をするうえでは常に顧客を重視することが大切です。
これは鍼灸院も同様で、患者様の問題や状況をできる限りくみ取っていかなければ、鍼灸院は衰退していきます。さらに、お金の亡者が増え続けると、この業界の信用にもかかわってきます。この点は、私も改めて気をつけなければいけないと思っています。
期待に応える
実はこの後、ある患者様とYouTube動画用の対談を行う予定になっています。その方のブログを拝見したところ、壮絶な状況であることが伝わってきました。鍼灸院でお客様と接する時間は30分から1時間程度です。その短い時間内ですべての状況を理解することは難しいのが現状ですが、ブログを読み、その壮絶さに改めて驚かされました。
鍼灸師もさまざまな業務で忙しいと思いますが、患者様にとっては来店された時が100%です。他の患者様もいらっしゃるため、100%の対応は難しいかもしれませんが、一人ひとりの患者様に真剣に向き合う努力をしなければ、失礼だと感じます。
鍼灸院に来られる方は、何らかの悩みを抱えて来店されます。さらに、半信半疑ながらも期待をもち、お金や時間、労力をかけて来店してくださっているので、その想いには応えるべきです。もし、自分の力では改善が難しいと感じた場合には、最善の策を提案することなども重要です。
鍼灸師の使命
鍼灸師は、患者に寄り添い、患者様の利益になるように最大限努力することを忘れてはいけません。この考え方は、「三方よし」にもつながり、鍼灸院が堅固なものとなることでビジネスとしても拡大していきます。
また、その延長線上には東洋医学の普及・復興と、鍼灸業界への信頼の向上があるはずです。ぜひ鍼灸師の皆様には、この姿勢を守り続け、協力していただけるようお願いいたします。